37歳 平凡な男性会社員です。真夏の8月の最終土曜日。唸るような暑さの中、関東某所のとある田舎町を目指して、私は愛車を走らせた。移動すること三時間。たどり着いたのは海の香りが微かに漂う小さな田舎町。かつては製鉄業を中心に工場の町として栄えたようだが、6年前に工場が閉鎖された後は人口も激減し、今ではすっかり当時の面影はない。残っているのは管理されていない海水浴場、廃校になった小学校、荒れ果てた森林、田んぼ、畑、脱け殻になった鉄鋼工場の数々、神社ぐらいしかなく、スーパーはおろかコンビニすら無い。街灯も少なく夜になると辺り一体は真っ暗になってしまい、波音や木々を揺らす風の音、工場の中から聞こえる奇妙な物音が響き渡る不気味な雰囲気が漂っている。こんな古びれた田舎町に、繁盛当時から営業されているペンションがある。50代の夫婦が二人きりで宿を細々と切り盛りしており、20~30人程度が泊まれる四階建ての洋風な外観で、近くには屋外テニスコート4面と、屋内多目的運動コートがあり、場所柄のせいか値段も安いため学生達の部活やサークル、ゼミの合宿に利用されていた。
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