6月終わりの日曜日、俺は学生時代ぶりに試験を受けに行った。大学卒業後就職した会社を一年で辞め、未来への当て所なくアルバイトを始めては辞め、また始めては辞める生活を続けていたものの、先日26歳の誕生日を迎えたとき、その"20代後半"という年月の重みと自分の中身の軽さに否応ない焦りを覚えたことをきっかけに、アルバイト先の先輩に勧められるまま検定試験を受けに行ったのだ。その試験とは色彩検定なる試験だった。それは現在、駅ビル内のアパレルショップでアルバイトをしている日常の中、とりあえず何でもいいから挑戦したいという思いの俺にとっては打って付けの検定で、久しぶりの受験生活に一喜一憂しながら一ヶ月間なんとか勉強を続け、ついに受験日を迎えたのだった。試験の出来は上々だった。だから「やめ」という試験管の声を聞いた時、長らく忘れていた達成感と充実感に満ち溢れ、快い溜息をついた。松島さんとの再会はそんな時だった。試験管から退出許可が出て、筆箱を閉める音や問題用紙をバッグに入れる音、ささやかな話し声や座席を立つ音に辺りが騒めきだした頃、うんと背伸びをして筆箱をバッグに入れた俺は、うっかり受験票を床に落としてしまった。受験票の行方を追って視線を落とすと、それを拾ってくれた人の細い指が斜め後ろから目の前に突き出された。
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